U SAiD SH12/DH13制作記

先日行われましたクソフマス2019についての感想と、U SAiDのあの譜面に至った経緯みたいなのをつらつらと書いていきますその2。100譜面近くが集まってまとめてプレイされる機会なんて他にほぼほぼ無く、大変貴重な場になっているので主催のひさくんさんにはいつも感謝しています。

 今回はU SAiD編です。

さて前回書いた通り筆者は基本的に「音楽・譜面・映像」の3要素(フレン・シーフォではない)で考えています。以前書いた通りBMSには大きく分けて支配型BMSと没入型BMS(とその他)があるわけですが、作曲・映像作成レベルの大幅な向上に伴い、近年ではほとんど没入型が好まれる傾向にあります。中にはFRENZに出展されるような作品もあり、映像作品としても高い評価がなされていることがよくわかります。

 

さて、このような没入型の質の高い映像作品で譜面を作るにあたって、一番邪魔なものは何かと言えば譜面そのものなんですよね。映像作品として完成している以上そこに手を加えるのが恐れ多いわけです。

例えばこれは僕が最も嫌いな譜面のうちの一つです。

いやこれ譜面いらないじゃんと。ムービーを見せるための譜面であるはずなのに譜面が一番重要なところに重なってるせいで本当に邪魔なんですね。あまりにも芸がない。

 

それが青空のラプソディと何が違うのかという話ですが、

こちらは譜面がキャラの代替となっている、つまり譜面が無ければ成立しない作品なんですね。もちろん元のMVを知っている前提の譜面にはなってしまう問題はありますが、そこは文脈の上に成り立っている譜面である以上仕方がない話です。

 

さて、今回選択したsiqlo先生のU SAiDも、そんな譜面が邪魔になるタイプの曲の一つでした。

人にオススメされて初めて聴いた時にすごい衝撃を受けてそれ以来「ヤベー譜面付けてやる!」ってずっと思ってたんですが、ぶっちゃけ映像と曲で完成してしまってるせいで譜面を付けるに付けられずずっと歯がゆい思いをしていました。

今回luaの勉強を少し進めて、ようやく自分を納得させられるだけの譜面を作れるかなと判断したので4年越しでついに着手することに。結果として時間全然足りなくてダメでしたが……

 

したがって今回のテーマは「譜面と映像の融合」になります。音ゲーとして譜面を流しつつも、背景映像を前面に押し出して、その映像の一部として譜面が自然な形で受け入れられるような作品を目指しました(そしてこれはMODS系譜面に欠けている要素でもあります*1)。

また、もう一つのテーマとして新規性を押し出しています。簡単に言えば使い古されたギミックは使いたくないというものです。そういったギミックって、簡単に実装できるし効果も大きいので凄くコスパがいいんですが、目新しさがない、つまり安心できるという正の効果しか生まないのですね。これは界隈の停滞を招きかねないので可能な限りは排除するようにしています。

それから、同じ技術を使いまわしても自分自身の進歩に繋がりませんので、新しい技術を取り入れるようにしています。今回はActorMultiVertexを勉強して使いました。コメントにある3Dモデルとはこれのことです。モデリングソフトなど使用せず、lua上の文字列だけで全部書いてます。

 

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実は一番苦労したシーン。spaceとminiとaddzとrotationzとaddxを組み合わせて表現、調整に2時間くらいかかりました。

addz、rotationz、addxはバーサス専用で発動する仕様になってるので、一人プレイだとかなりダサくなります。できれば選ばないでください。ダブルはspaceの値を調整してそれっぽくしてあります……本来なら左右で分身させる予定だったのですが、時間が足りず泣く泣く断念しました。ステップゾーン2個あって2時間かかるのに1個しか無かったら倍くらい時間かかるので。

 

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この曲で一番好きなシーン。開放感が凄い。

普通に演出を考えてるとFGが表示されてから一切譜面が降ってこなくなるせいで譜面が作れなかったのですが、この後のActorMultiVertexでの3Dメッシュ表示を思いついてようやく作成のめどが立ちました。

 

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問題の3Dモデル。ここにlua1000行使ってます。

背景映像と合わせてメッシュ表示にしたかったんですが、サイズの都合でちょっとごちゃごちゃしすぎだったので平面方向だけスライス表示しています。あと書くのがめんどくさかったのも。

 

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luaでの書き方はこんな感じです。こんな感じで縦方向にスライスを13枚重ねてあるのと、横の部分の辺を記述しています。計400行。

あと表面だけ塗りつぶしたarrow_face (400行) と、各辺だけ表示してるarrow_edge (200行) を別レイヤーとして作りました。

 

この部分の回し方はもうちょっと綺麗にしたかったんですがやっぱり時間がなく、仮置きした状態のままそのまま提出することに。

本来であれば開始時に譜面分岐してランダムな方向で踏ませるはずだったんですがそれはもっと時間が足りませんでした。しかもITG仕様にすると2曲消費になるので没です。

また他の案としてクロスビーツ風の表示になるとかもあったんですがやっぱりムービーと合わないので没に。やっぱり3Dモデルの背景には3Dモデルですね(?)

 

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新しい試み2。FGで動画2つ流してcropでのレーン制限。

とにかく繰り返しが多いこの曲ではどれだけ同じ音に対して表現を引き出せるかが勝負になります。ただ光ったり揺れたりするだけなのはつまらないし、ムービーにも合わないので無理矢理ひねり出してきました。ここはダブルが先で、シングルのレーン隠しはダブルから連想したものになります。

ちなみにそのうち再登場します。

 

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痛恨のミス。左端が隠れてしまってます。本来は135の3つ同時押し。

 

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この辺りはbeatを使って背景に合わせて歪ませてます。

本当は他の表現があると思うんですが、いかんせん技術不足。ただ背景のブレにbeatを合わせるのは軸の一つだったので他の方法を探すのはしませんでした。

 

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ここの左上同時は失敗でした。

二枚抜きで処理することで交互に踏める配置なのですが、身体の向きと重心を考えるとどう考えても両足で同時を踏んだ方が楽なうえに自然な動きで、そうするとその後の↓が左足入りになって足がぐちゃぐちゃになります。

 

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ムービー中でoverlay的に表示されるエフェクトは全部譜面より手前に表示されます。

譜面がムービーの一部であることを表現するためです。本来ならcropを使って見える範囲を制限すべきですが、工程削減のためにただdiffusealphaだけで作っています。

 

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砂嵐感出したかったんですが失敗だったかも。ここは使い古されたギミックですね……

 

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譜面難易度を従来より2段階上げることになったすべての原因。

背景動画が上半分と下半分で反転してるシーン、ディスプレイ側の演出としたかったので譜面も反転させて一体感を出す狙いがあります。まあ背景見てる余裕ないので気付かないのですが……

基本的には1Pを下に、2Pを上にずらしたうえで、2P側にSUDDENをかけてオフセット調整して作っています。シーンごとに反転する高さが変わるので合わせたかったんですが、やはり時間がなかったのと、本格的に攻略困難になるので統一してこの高さにしました。

 

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ダブルはステップゾーンが足りなかったので60fpsで上下に振動させて分裂させています。

配信や録画は30fpsであることが多いのでほとんど見えません。反省点……実際にプレイしていただくと違いが判るかと思います。

映像が乱れている感じを出したかったのでステップゾーンがなんとなく点滅しているのもよかったかなと。いや気付かないですが。

 

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痛恨のミスその2。ただ譜面が消えるだけになってしまった。

本来、FGをダイレクトに表示するとフラッシュのような効果が得られます。なぜならライフバー、タイトル、スコア、譜面などが一気に消え、さらにデフォルトで輝度に制限がかかっているBGがFGで上書きされるからです。ここはクラッシュに合わせてFGを表示してるのですが、譜面以外の全要素を消してあったのと、BGそのものの明度がかなり高いシーンだったのでほとんどフラッシュ的な効果が得られませんでした。

結果としてただ譜面が消えるだけというお邪魔虫に。でも消すのも忍びなかったのでそのまま残してます。もしかしたら譜面にstealth 50%をかければよかったのかもしれませんが、それはそれでまた違う気がするので……難しいところ。

 

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主役が背景のヘッドホンになるので邪魔な譜面にはどいていただきました。

ここも背景合わせでbeatかけてるんですが、全部半拍ズレてました。本当に申し訳ないです。あとヘッドホンが消えるタイミングで譜面の矢印を全部3Dモデルのメッシュにする予定だったんですがやはり間に合わず……実装するのが大変 (luaが1000行くらい追加される) な割に視覚的効果が少ないので見送りになりました。ITG対応するときに、とも思ったんですが無理です。なぜならSM5で対応した奴を録画して流すことになるからです。

 

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siqlo先生、vol-t先生、素晴らしい作品を本当にありがとうございました。

 

そうして出来上がったのがこれらの譜面になります。

何度もアピールしてる通りlua4500行は前回のDDFS3倍もの数字になるんですが、作画の負担が無かったので製作時間としては半分以下に収まっていると思います。おそらく30時間程度?

受賞が無かったのは正直悲しかったんですが、審査員 (というかITGのメインストリーム) とは外れてるのは間違いなく、そもそも複数受賞もアレなので妥当な結果かなとは思っています。むしろこの譜面を通して冒頭に挙げたStepManiaの3要素を組み合わせた楽しみ方が広まってくれればと。

 

最後に、この譜面を公開する場を提供してくださったひさくんさんと、素晴らしい作品を作っていただいたsiqlo先生、vol-t先生に改めて感謝の意を申し上げます。

まあどれだけ言葉を繕っても無断転用ですけど。

*1:映像作品に対するMODS譜面が少なく、ゲーム性のために自ら背景を作りに行くのが主流であるためです